医療に関する業界の専門用語等、意味をわかりやすいように解説した用語集・辞典です。内科・小児科等の病院に関する用語について紹介しています。ご自由にお役立て下さい。
胃がんは、胃の悪性新生物の95%を占める上皮性じょうひせい(粘膜由来ねんまくゆらい)の悪性腫瘍で、日本では肺がんに次いで死亡率の高いがんです。男女比は2対1と男性に多く、男女とも60代に発症のピークがあります。
がんの深達度しんたつど(深さ:漿膜側しょうまくがわへの広がり)により早期がんと進行がんに分類されますが、早期胃がんは大きさやリンパ節への転移の有無に関係なく、深達度が粘膜内または粘膜下層までにとどまるものと定義されています。日本は、世界的にみても早期発見の技術や手術成績が優れており、近年の有効な抗がん薬の開発も相まって胃がんの治癒率は明らかに改善しています。決して、進行がん=末期がんではありません。
胃がんの発生には、環境因子の影響が強いと考えられています。
最近になって、ヘリコバクター・ピロリ(Hp:ピロリ菌)と呼ばれる細菌が胃のなかにすみ着いて胃がんの原因になっていることがわかってきました。この細菌は、1994年に国際がん研究機関によって“確実な発がん因子”と分類されました。菌によって慢性の炎症が起こり、慢性萎縮性胃炎まんせいいしゅくせいいえんをへて腸上皮化生ちょうじょうひかせいと呼ばれる状態になり、これらが胃がんの発生母地になると考えられています。
この菌は、50歳以上の日本人の約8割が保菌しています。Hp 陽性の患者さんで粘膜の萎縮の強い人は、萎縮のない人に比べて5倍も胃がんになりやすく、またHp 陽性の患者さんで腸上皮化生のみられる人は、みられない人に比べて6倍も胃がんになりやすいとされています。ただし、Hp 陽性者が胃がんに移行する確率は0・4%と低く、ヒトではHp 感染だけでは胃がんにはならず、Hp によって萎縮性胃炎が進行したところにさまざまな発がん因子が積み重なり、胃がんが発生すると考えられています。
分子レベルでは、この過程でがんをつくる方向にはたらく遺伝子(がん遺伝子)の活性化や、がんを抑える遺伝子(がん抑制遺伝子)の不活性化が起こっています。
一方で、胃がんの発生は食生活に関係があるといわれています。たばこ、高塩分食、魚や肉などの焦げは発がん促進因子とされており、逆に緑黄色野菜に含まれるビタミンA、C、カロチンは発がん抑制因子とされています。
胃がんと胃潰瘍はまったく別のものと考えられており、同じHp 感染が原因でありながら十二指腸潰瘍の患者さんには胃がんができないことも知られています。また、胃ポリープの一部(腺腫性せんしゅせいポリープ)は前がん病変と考えられていますが、がん化率はそれほど高いものではありません。
胃がんに特有な自覚症状はありません。早期胃がんの多くは無症状で、一般には上腹部痛、腹部膨満感ふくぶぼうまんかん、食欲不振を契機に、X線造影検査や内視鏡検査で偶然に発見されます。
進行がんになると体重の減少や消化管の出血(下血や吐血)などがみられ、触診で、上腹部にでこぼこの硬い腫瘤しゅりゅうを触れることもあります。腹水がたまったり、体表にリンパ節が触れるような場合は、がんが全身に広がったことを示し、このような場合は手術の対象にはなりません。