胃のなかには、0・1規定の塩酸(胃の壁細胞で作られる純度の高い塩酸)が常時存在していますし、食物自体も物理化学的に胃粘膜を障害する可能性があります。したがって、年齢が増すごとに胃の粘膜は荒れていくというのが、これまでの常識でした。そのため、慢性胃炎は加齢に伴う現象である、という説が日本の学会では主流を占めていました。
しかし、この考え方を一変する事件が1982年に起こりました。それはピロリ菌の発見です。この菌の発見によって慢性胃炎の大半はピロリ菌の長期感染によって引き起こされることが明らかになってきました。
慢性胃炎は、急性胃炎のように完全に治りきることはまれといわれています。病理学的にみると、当初は表層性胃炎ひょうそうせいいえんと呼ばれるリンパ球を中心とする炎症細胞浸潤しんじゅんがみられます。胃炎が長期化してくると、胃粘膜は次第に萎縮し、胃酸や粘液を分泌しない状態になり、萎縮性胃炎いしゅくせいいえんと診断されます。
前述のように、慢性胃炎の成因のほとんどがピロリ菌感染であることが明らかになってきています。ピロリ菌感染がなければ、70歳以上の高齢者でも萎縮のないきれいな胃粘膜をみることができます。
比較的多くみられる症状は、上腹部不快感、膨満感ぼうまんかん、食欲不振などのいわゆる不定愁訴と呼ばれるものです。ですから症状だけで慢性胃炎を診断することはできません。もちろん、胃の炎症症状の強い時には、吐き気や上腹部痛などの急性胃炎症状が出てきます。
重要なことは、慢性胃炎においては、胃粘膜の萎縮の状態と自覚症状の程度が相関しないことです。つまり、なぜ慢性胃炎で症状が出るのか、わからない部分がまだ多いのです。