アルコールの過剰摂取により最初に起こる肝臓の変化は脂肪肝です。
脂肪肝は日本酒1日5合程度1週間飲み続けると確実に起こりますが、2〜3週間の断酒によって脂肪肝はなくなります。アルコール性脂肪肝の人がさらに継続して大量に飲酒すると、10〜20%の人にアルコール性肝炎が発症します。
この肝炎は重症になるとしばしば致命的な劇症肝炎になります。また日本酒3〜5合の飲酒を続けていると、肝細胞の壊死を伴わない肝線維化が進行し、男性なら約20年、女性なら約12年後に肝硬変に移行します(女性はより少ない飲酒量で肝障害が生じやすいので注意)。このようなアルコール性肝硬変は慢性大量飲酒者の20〜30%にみられます。
ALDはどのような機序で起こるのでしょうか。以前はアルコールを飲む人は低栄養を伴うために肝障害が起こるという考えもありましたが、現在ではアルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドが不安定で反応性に富んだ物質であるため、生体内のタンパク質や脂質を変性させ、肝臓を障害すると考えられています。
さらにアルコールはフリーラジカルの生成を促し、酸化ストレスの原因になります。アルコールは腸内細菌が産生する内毒素(エンドトキシン)の消化管から門脈への移行を促進させるので、エンドトキシン血症を惹起し、それによってクッパー細胞から種々の化学物質を放出させ、肝細胞を障害します。
重症型アルコール性肝炎(SAH)
SAHはアルコール性肝炎のなかで、肝性脳症、肺炎、急性腎不全、消化管出血やエンドトキシン血症を伴う重症の肝炎で、禁酒しても効果は現われず、1ヵ月以内に死の転帰をとる場合があります。
最近この疾患の女性患者数に増加傾向がみられますが、その背景には女性の方が男性より少量の飲酒で肝障害が進展すること、女性の社会進出によって女性一人当りの飲酒量が増加傾向を辿っていることが挙げられます。
女性がSAHに占める割合は1992〜1994年では19%でしたが、1998〜2002年で30%になっています。SAHの予後の改善には、早期発見、血漿交換、血液持続濾過透析、白血球除去療法などが早期に実施されなければなりません。